利休が生まれ、利休が没した「堺市」。
阪堺電軌上町線「神明町」を降りると、目の前に町家造りの木造建築が一軒佇む。
160年の以上もの歴史をもつ『茶寮 つぼ市製茶本舗』の堺店。
「店庭」に『つぼ市製茶本舗』の想いのすべてが凝縮
緑の暖簾をくぐり引き戸を引くと、1坪半程度の土間がある。
町屋的にいえば「店庭(みせにわ)」というのであろう、お店に入る前の「前室」になっている。
正面の柱の「茶」と書かれた木製の古い看板が目に飛び込む。
右側の足元には手入れの行きとどいた坪庭風の設え。そして、お茶の香ばしいいい香り!
つぼ市の精神的支柱の木製看板「茶」
これか!空襲を逃れて奇跡的に見つかった看板とは。つぼ市の歴史を語る上で欠かせないエピソードをもつという、つぼ市の精神的支柱だ。
“店を失い途方にくれていた当時の店主が、焼け残った看板を見て「諦めずに茶業を続けよ」との先祖からのメッセージだと感じ入り再起を誓った”というもの。何も知らずに見ればただの木製看板だが、歴史と重みのある代物だ。
店舗づくりのコンセプトは『市中の山居(しちゅうのさんきょ)』
大阪の堺と東京の浅草に店舗を持つ『茶寮 つぼ市製茶本舗』。
どちらのお店も空間づくりのコンセプトは「市中の山居」。つまり「喧噪な都会にいながらにして山里の静けさと風情を味わう」こと。
これは堺の茶人たち、利休やそれ以前の武野紹鴎からの茶の湯の精神だ。草庵茶庭の「露地」はその境遇づくりに欠かせない役割をもつ。足元に何気なく設えられた緑が、都会の客人を山里に迎い入れる「露地」の役割を果たしている。
濃厚な「つぼ市ワールド」に引き込まれる
まだ店内に入っていないのに・・・。このアプローチに詰められた設えを見ただけでも、堺に来た価値がある。
入り口に近くに「つぼ」が口を向けて横たわっているのも意味深、まさにつぼ市の「つぼ」に吸い込まれそうだ。
日本人だからか。緑茶の香りと町家づくりに「山里」をみる
都会と山里の結界ともいえる「店庭」。
結界を越えた先には売り場スペースの土間があり、正面の壁の商品棚は間接照明で演出されている。右手には、墨モルタルの土間に木のテーブルが置かれたカフェスペースが奥にまで広がる。やわらい光が奥の坪庭からカフェスペースに差し込んでいるのが心地よい。
山里か・・・。
明と暗を持つ典型的な町屋のつくりをうまく活かしている。
何で落ち着くのか・・・。
香ばしいお茶の香りがさらに強くなった。日本人以外でもこの緑茶の香ばしいさに、心安らぎ、ホッとする国民がいるのだろうか。
噂の「抹茶のかき氷」を食べたくて堺にきた
平日とはいえ夏休み時期の昼下がり、待つことを覚悟で来たが、幸いなことにカフェには3組の先客しかいなかったため、すぐに席に通してもらえた。できれば坪庭に面した窓際が良かったが、そうな贅沢は言えない。
迷わず、「利休抹茶時雨」のほうじ茶セット 922円(税込み)をオーダー。金時とミルク金時もあるが、シンプルに王道を試してみることにした。
待つこと20分
かなり待つがでてこない、たかがかき氷ごときに・・・。
いや、茶の湯であれば、亭主は恐らくその待ち時間すら秒単位でタイミングを計っているはずだ。
利休ならきっとそうするだろう・・・。
この時間が、たかがかき氷をされどかき氷に変えるのであろう。
これも、深読みし過ぎか!?
特別な刃物を使っているとは聞いたが一体どんな刃物で氷をかいているのか・・・。
通称「無重力かき氷」と言われているが誰が言い出したのか・・・。
築300年とも言われる町屋を見回すと、カフェスペースの天井は張られてなく小屋組がそのまま露出している。腐食している古い柱や梁はそのまま残され、新しい木材で補強されている。
昔は何を商いとする商家だったのか・・・。
店員さんが着物だったらもっと雰囲気はいいのに・・・。
そんなことを想い巡らすために、亭主に仕掛けられた時間、コンセプトの一つなのだ。
きた!
おっ!これが無重力か!
口の中で、氷はすぐなくなるのに、抹茶の風味はいつまでも残る。
食べても食べても抹茶が濃い。どこから食べても抹茶が顔を出す。
冷たいのに味が鈍らない。
後になればなるほど、味が濃くなるのはどうしてか。
どんだけ濃いんだ、薄まらないぞ!
温かいほうじ茶がありがたい
さすがに氷を食べきった後は体が冷えるので、ほうじ茶がとてもありがたい。
セットについてくる、抹茶クッキーのバターが効いて、ほのかに甘くてちょうど良い。
途中でお番茶もいただけたから、単品でもよかったのかも・・・。
最後まで抹茶の濃さを楽しませてくれる秘訣
帰りの会計の際に作り方とどのくらい抹茶をつかっているのかを聞いてみると、ミツにとかした抹茶シロップを、氷にまんべんなくかけながら作るそうです。何グラムかはわならないが、かなりの抹茶が入っているとのこと。
抹茶1杯は2g程度なので、5g以上使っていることは間違いなさそう。
とにかく、食べ終わるまで抹茶が濃いです。
すべては『市中の山居(しちゅうのさんきょ)』のために・・・
茶の湯の精神をもって『つぼ市製茶本舗』にはいると、店内のさりげない仕掛けや、時間の感じ方、空間の感じ方が違って見えるのではないでしょうか。深読みするのもたのしいものです。
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つぼ市製茶本舗
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