『千利休(せんのりきゅう)』を題材にした映画を探してみました。
千利休(1522年-1591年)は茶の指南役として戦国、安土桃山時代の権力者である織田信長、豊臣秀吉のに仕え、「わび茶」という茶の湯を完成させた茶人。
調べてみると「利休」の映画はこの4本。
1.『利休』(1989年松竹)
2.『千利休 本覺坊遺文(ほんかくぼういぶん)』(1989年東宝)
3.『利休にたずねよ』(2013年東映)
4.『花戦さ』(2017年東映)
『お吟さま』(1962年松竹、1978年東宝)という映画もありますが、利休の娘の恋を中心に描いたもので、DVDなどもなく視聴が難しそうだったので除外しました。3本はDVDでも販売されていて、Amazonビデオでも簡単に視聴できます。
『利休』は『千利休 本覺坊遺文(ほんかくぼういぶん)』と同じ1989年公開の映画。利休没後400年を前にして松竹と東宝が制作したものです。利休を演じているのは、それぞれ三國連太郎と三船敏郎。
そして、2013年公開の『利休にたずねよ』は、2010年直木賞受賞作品『利休にたずねよ(山本兼一)』を映画化したもので、利休を演じているのは市川海老蔵。
利休の配役だけでも、まったく違う利休を楽しむことができる3本です。
1.『利休』(1989年9月公開、松竹)
小説『秀吉と利休(野上彌生子)』原作。天下統一をした後の秀吉と晩年の利休を中心に利休が切腹するまでを描いています。
映画は、利休が茶室までの朝顔の花をすべて摘みとり、茶室に一輪だけ生けて秀吉を迎えたという有名な話からはじまります。
なんといってもこの映画の見どころは、三國連太郎の「利休」と、山崎努の「秀吉」の迫力のある演技。利休の言葉少なくも心情がわかる細かな表情、秀吉の品のなさや利休のセンスに驚き嫉妬する演技は見物です。
短時間ですが織田信長役として松本幸四郎、徳川家康役には弟の中村吉右衛門が主演しているのも貴重。元首相の細川護煕氏もほんの一瞬だけでてたりします。
監督は勅使河原宏。
草月流三代目家元だけあって、美の表現も見どころの一つ。
映画の中で使用されている茶碗の多くは本物や美術品が使用されていたといいます。
衣装は黒澤明監督『乱』の衣装デザインをしたワダエミ。秀吉の衣装の華やかさや金粉の化粧などは『乱』の仲代達矢演じる武将・秀虎を連想します。
利休が茶を点てる、茶碗を焼く、長谷川等伯がふすま絵を描くシーン、
「待庵」で秀吉が持ってきた大きな梅の枝を利休が見事に生けてしまうシーンも注目です。
『利休』キャスト
利休:三国連太郎
豊臣秀吉:山崎努
織田信長:松本幸四郎
徳川家康:中村吉右衛門
細川忠興:中村芝翫(中村橋之助)
山上宗二:井川比佐志
古渓和尚:財津一郎
利休の妻:三田佳子
大納言秀長:田村亮
北政所:岸田今日子
茶々:山口小夜子
石田三成:坂東八十助
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2.『千利休 本覺坊遺文(ほんがくぼういぶん)』(1989年10月公開、東宝)
小説『本覺坊遺文(井上靖)』原作。利休切腹の27年後、利休はどうして切腹したのか、どんな思いで切腹したのかを、利休の弟子と織田有楽斎が回想を混ぜながら解き明かしていく話を描いています。
「利休」を演じるのは三船敏郎、利休の「弟子(本覚坊)」に奥田瑛二、信長の弟「織田有楽斎」に萬屋錦之介。
監督は熊井啓。
石原裕次郎主演の『黒部の太陽』の監督で、1978年の利休の映画『お吟さま』の監督でもありますが、このとき三船敏郎は「秀吉」を演じています。
なんといっても見どころは三船敏郎の利休。いわゆる利休のイメージとはちがって骨太感がすごい、迷いがない。
芦田伸介の「秀吉」もちょっと品があるお殿様風。切腹すると言い張る利休を秀吉がなだめたりしているのですが、天下人にもの言う「茶人」として考えればこのバランスは観ていておもしろい。
そして、織田有楽斎を演じる萬屋錦之介のキレのある演技と眼光。奥田瑛二の質素で寂れた雰囲気がいい味をだしています。
『「無」ではなにもなくならない、「死」ではなくなる』
「死」することで「わび茶」は完成すると、利休、山上宗二、古田織部が茶室に『死』の掛け軸をかけて話をするなど、茶人三人がともに切腹するに至った経緯の描き方は、観ていて少し異様ですが興味深いものがあります。
萬屋錦之介のラストの迫力のある「エア切腹」も見物です。
『千利休 本覺坊遺文』キャスト
本覚坊:奥田瑛二
千利休:三船敏郎
織田有楽斎:萬屋錦之介
古田織部:加藤剛
太閤秀吉:芦田伸介
山上宗二:上條恒彦
東陽坊:内藤武敏
古渓:東野英治郎
千宗旦:川野太郎
大徳屋:牟田悌三
大徳寺春屋和尚:有馬昌彦
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3.『利休にたずねよ』(2013年12月公開、東映)
直木賞受賞の小説『利休にたずねよ(山本兼一)』原作。利休が茶人になる前の若いころから切腹するまでを描いています。利休の『美』には若いころの恋愛が関係していたという斬新な切り口。
監督は「火天の城」も手がけた田中光敏。
映画は、利休の妻・宗恩演じる中谷美紀のやさしい語で展開します。
やはり見どころは市川海老蔵の「利休」。なんといっても所作の一つ一つが美しく、繊細で色気があります。
大森南朋の「秀吉」は単なる性格の悪い権力者という感じもしますが、伊勢谷友介の「信長」も美しく、佇まいで気持ちを表現している中谷美紀(利休の妻)の演技にも心が動かされます。
後半になって展開される利休のラブストーリー。前半の「利休」の空気感を一瞬で消してしまうので酷評も多く、その意味で見物です。
「私がぬかずく(頭を下げる)のは美しいものだけ」
「美はわたくしがきめること、私が選んだ美に伝説がうまれます」
などの海老蔵が発する利休の言葉は印象的。
大徳寺の古渓和尚を中村嘉葎雄(なかむら かつお)が演じていますが、『千利休 本覺坊遺文』には兄の萬屋錦之介が出演しているので、一瞬、あれっここにも萬屋錦之介?と思ってしまいましたが、3本の映画を続けて観るとこんなことも楽しめたります。
『利休にたずねよ』キャスト
千利休:市川海老蔵
宗恩:中谷美紀
武野紹鴎:市川團十郎
織田信長:伊勢谷友介
豊臣秀吉:大森南朋
高麗の女:クララ
石田三成:福士誠治
山上宗二:川野直輝
細川忠興:袴田吉彦
細川ガラシャ:黒谷友香
北政所:檀れい
長次郎 – 柄本明
千与兵衛:伊武雅刀
古渓宗陳:中村嘉葎雄
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4.『花戦さ』(2017年6月公開、東映)
『花戦さ』(2017年6月に公開)の池坊専好という花の名手と千利休の友情を描いた映画の中で、「利休」を演じているのは佐藤浩市。
父・三國連太郎の「利休」と、またひと味ちがう利休が観れるのもこの映画の楽しみかのひとつ。
池坊専好:野村萬斎
利休:佐藤浩市
豊臣秀吉:市川猿之助
織田信長:中井貴一
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