新茶の季節といえば、「夏も近づく八十八夜」の5月の初夏ですが、そのむかし新茶といえば秋だったそうです。初夏につまれた茶葉は壺に入れられ、夏の間に低温貯蔵することで風味をまし、新茶特有の青臭さが抜けてまろやかでコクと深みのある茶葉になります。
これを後熟(こうじゅく)といい、初夏の新芽のお茶を熟成させることで、後に生まれ変わりその年の「新茶」とされたそうです。
新茶はいわば「ボジョレーヌーボー」
新茶には新茶の良さもありますが、ワインやウィスキーと同じように、涼しいところで湿度も管理されて保管されたものは乾燥した茶葉も緩やかに熟成して、「カド」が落ちまろやかな味になると言う訳です。
ワインで言う「ボジョレーヌーボー」が初夏の「新茶」といったところでしょう。
家康も「後熟」を好んだ
江戸時代、駿府(静岡)に隠居した徳川家康は深い味わいのお茶を好んだようです。
春に摘んだ新茶を茶壺に詰めて密封、山間地で気温も湿度も低い井川大日峠のお茶蔵屋敷で保管して夏の暑さをしのいで後熟させました。晩秋になってお茶蔵を開き、山から駿府城まで運ばせて、お茶会を開いていたそうです。
静岡では毎年お茶のイベントが
家康の故事にならって、お茶のまち静岡市では毎年春から秋にかけて一連のお茶のイベントを開催しています。今年は第34回です。
5月(2017年は5月27日開催済み)
1)新茶を茶壺に詰める「茶詰めの儀」
10月(2016年は10月22日開催)
2)お茶蔵から茶壺を取り出す「蔵出しの儀」
3)蔵からお城におろしてくる行列「お茶壺道中行列」
4)茶壺の封を切る「口切りの儀」
11月は茶人の正月「口切りの茶事」
茶道においては、夏の間の風炉を閉じ11月の初旬になると「炉開き(開炉)」をします。この時期に合わせて、「口切りの茶事」を行いその年のいわば「新茶」を頂く訳です。
「口切りの茶事」では亭主が客人の目の前で壺の口を切り碾茶が取り出されます。そして石臼で抹茶に碾いたものを濃い茶として振舞われます。茶の湯の世界では最も正式な茶事とされ、お茶室の畳や障子を張り替えして新たな気分で茶壺の口切りを行います。
まさに、お正月そのものです。
家康の時代以前から神へ「献茶」の儀式があった
北野天満宮では秀吉が御前で自らお茶を立てたのが始まりとされます。利休の北野大茶会が催されたことでも有名で毎年11月26日の「茶壺奉献祭、口切式」は京都でも風物詩となっています。12月1日には「献茶祭」が開催されます。
平安神宮でも宇治からの銘茶が茶壺に納められて奉献される「茶壺奉献祭」が、10月17日の伊勢神宮で斉行される「神嘗祭」の当日に行われます。日本のお茶の歴史は神事にも深い関わりがあるんですよね。
秋こそお茶を楽しもう!
このところ秋に向けて、新製品のお茶や抹茶を使ったアイスやスイーツも数多く見られますよね。
製茶所から発売される「蔵出し茶」や「壺切り茶」というのは、こうした儀式から名前のついたお茶の銘柄で、この時期ならではの季節ものといえます。
今では、低温倉庫などで保管、熟成に最適な温度と湿度管理が徹底しているので、必ずしもこの季節でなければならない理由はないのでしょうが、秋の季節に緑茶や抹茶関連の新商品が増えてくるのは、こうした歴史や背景があるからなのでしょう。
秋こそ、ゆっくり急須に淹れたお茶や、お抹茶を楽しみたいものですね。
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