日本には、急須や湯呑といった茶器などの焼き物の産地が数多くあります。
縄文土器から始まる日本の焼き物の歴史は大変古く、のちに朝鮮半島から伝わってきた「ろくろ技術」と「窯焼き技術」によって飛躍的に進歩しました。その伝統の技術が、時代や遷都により全国各地に広まり、変化しながら今に引き継がれています。
日本六古窯(にほんろっこよう)とは
そんな中で、日本古来の陶磁器窯のうち、中世(平安時代末期~安土桃山時代)から現在まで生産が続く歴史ある窯は6つあり、その6ヶ所の窯場の総称を日本六古窯と呼んでいます。
6つの窯は、越前・瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前。
朝鮮や中国から渡来した製陶方法や技術により始まった他の窯とは区別されており、日本六古窯は、日本生まれ日本育ちの生粋の日本のやきものとされています。
昭和23年頃、古陶磁研究家・小山冨士夫氏により命名され、平成29年に「日本遺産」に認定。それを機に"やきもの”を通して、人間としての根源的な営み、人と自然との関わり、ものづくりの根源を再考する取り組み『旅する、千年、六古窯』と題した活動がスタートされています。改めて千年にわたり育まれたその技術や文化、その魅力に触れることができる機会になりそうですね。
1. 瀬戸(せと)
生産地:愛知県瀬戸市とその周辺。
発祥:
5世紀後半に現名古屋市・東山丘陵周辺で、須恵器の生産を行っていた猿投窯(さなげよう)の影響下の中で、「唐物」を自分たちで作ろうと実行し、中世で唯一の施釉陶器を焼く窯として独自に発展。
19世紀に入ると磁器の生産もはじまり、アメリカへの輸出や万国博覧会への出品など、海外でも高い評価を得るようになり、世界に瀬戸の名が広まります。今では食器やノベルティ、陶歯、自動車の部品など、多種多様な製品を生み出し続け、”せともの”は陶磁器の代名詞ともなっています。
特徴:
・本格的な施釉陶器。唐物を意識した高級品。
・透明感があり柔らかな風合いの白く美しい素地と、写実的で繊細さが魅力の染付画(瀬戸染付の技法による)。
2. 常滑(とこなめ)
生産地:愛知県常滑市
発祥:
平安時代末期(1,100年頃)、知多半島の丘陵地で猿投窯(さなげよう)の流れをくんで誕生。安土桃山時代までの累計3,000基を超す窯があったと推定されており、六古窯の中で最大規模をほこる窯。その技術は信楽、丹波、越前など有名な窯業地に影響を与えてきました。
江戸時代に入ると、赤物と呼ばれた素焼きの日用雑器に、真焼けの陶芸品も加わりました。江戸時代の終わりには、重要無形文化財にも認定されている約150年の歴史ある朱泥急須をはじめとする朱泥製品(茶器・酒器・火鉢など)がつくられるようになりました。
そして明治時代には西欧の技術が導入され、陶管、焼酎瓶、煉瓦タイル、衛生陶器などの生産がはじまりました。
特徴:
・釉薬を用いない焼締によるやきもの(主に日用品)。使いやすくシンプルなラインで無釉の自然な手触り。
・原料に含まれている鉄分を赤く発色させる技法により朱泥急須のように鉄分を多く含む土で作られたもの。
※朱泥急須は、お茶を淹れると、朱色のもとである酸化鉄とお茶のタンニンが反応を起こし、お茶の渋みや苦みがちょうどいい塩梅で取れ、まろやかな味わいになるといわれています。
3. 信楽(しがらき)
生産地:滋賀県甲賀市信楽町
発祥:
天平時代に屋根瓦を焼くことから始まったと伝えられており、13世紀頃、常滑の影響を受けて開窯。常滑焼の影響が強かった信楽焼ですが、次第に信楽焼独自の風合いを備えた無釉焼き締め陶を数多く作り出します。
室町・安土桃山時代には、その素朴な風合いが「茶陶信楽」として茶人から愛され、茶の湯とともに発達、信楽焼のわび・さびの味わいは現代にも生きています。昭和前期には、信楽焼の代名詞ともいえるたぬきの置物が誕生しました。
特徴:
・釉薬をかけずに焼成し、灰などの自然釉により、焼成の過程で素地が変化しつくり出される「窯変」が魅力。「蹲(うずくまる)」など。
・ざっくりとした肌合い。
4. 丹波(たんば)
生産地:兵庫県篠山市今田町
発祥:
平安時代末期から鎌倉時代初期に、山腹に溝を掘り込み、天井をつけた「穴窯(あながま)」から始まり、1611年ごろ朝鮮式半地上の「登り窯」が導入、蹴りロクロ(日本では珍しい立杭独特の左回転ロクロ)と釉薬(うわぐすり)の普及により発展。その伝統技術は今日に継承されています。
江戸時代前期には、茶人・小堀遠州らの指導で茶入・水指・茶碗など味わいのある茶陶が焼かれました。開窯以来およそ800年、丹波焼は一貫して日用雑器が主体であり、今もなお暮らしに寄り添うやきものがつくられています。
特徴:
・千三百度の登り窯が産み出す「灰被り(はいかぶり)」という独特の色と模様。
・素朴な風合いが魅力の日用品。
5. 越前(えちぜん)
生産地:福井県丹生郡越前町
発祥:焼き物としては奈良時代に須恵器の生産から始まりましたが、越前焼としては、平安時代末期、常滑の技術を導入して焼き締め陶を作り始めたのがはじまり。
室町時代後期になると、北海道から瀬戸内海を通って大阪へ商品を運ぶ北前船(きたまえぶね)によって運ばれ、硬くて丈夫な越前焼は、水や穀物を貯蔵する甕(かめ)、壺、酒や油などを貯蔵する徳利(とっくり)など重宝され、広く普及発展していきました。明治末〜日本の近代化に伴い越前焼窯元の数が激減しましたが、新しい取り組みや越前焼の歴史的価値が見直され、復興を遂げました。
特徴:
・無釉焼き締めの日常生活で使う製品が中心。
・絵付けもされないことが多く、素朴で温かみがある自然体の美しさ。
6. 備前(びぜん)
生産地:岡山県備前市伊部
発祥:
岡山県東部邑久(おく)地方の須恵器系の流れをくみ、平安時代には全国随一の須恵器の生産地として繁栄。鎌倉時代の中期になって、褐色の肌に焼きあがる備前焼として成立。
安土桃山時代には茶の湯に重宝されるように。備前焼の素朴さが、茶道の詫び寂びの精神に通じることもあり深く愛好されていました。江戸時代に入ると、岡山藩あげて備前焼の発展に力を入れ、末期には連房式登り窯が開窯しました。現在は多くの人間国宝を排出、海外でも純日本的な備前焼の人気が高まっています。
特徴:
・「田土(ひよせ)」と呼ばれる田の土と鉄分を含む山土を配合してつくられたた茶褐色の地肌から生まれる味わい。使い込むほど味が出るそう。
・絵付けや施釉をせず、土の質や成分が焼成の過程で素地が変化しつくり出される「窯変」によって生み出される模様。
・1点ずつの成形のため、胡麻、棧切り、緋襷、牡丹餅などの変化に富んだ、全て異なる焼き味。
今日もお茶で愉しい、一日を。